Research Content
研究内容
Background
研究背景 -フレイルとヘルスリテラシー -
高齢者のフレイルは、健常と要介護状態の中間の段階を指し、介護予防施策の主要なターゲットとなっています。フレイルは、生理的予備能の低下によって、小さなストレス(感染症など)に対しても脆弱となり、生活機能低下を生じる危険性が高い状態です(図1)[1]。

図1 フレイルの特徴(ストレスへの脆弱性) 文献1より作成
フレイルの発生・進行を予防するには、身体活動や食事などの生活習慣(たんぱく質、野菜・果物の摂取など)が重要ですが、行動の変容や継続は簡単ではありません。我々は、フレイル対策を検討するうえで、健康に関連する情報を、適切な健康行動につなげる能力である、ヘルスリテラシーに注目しています(図2)。



図2 フレイル予防・健康行動を支えるヘルスリテラシー
ヘルスリテラシーには、個人の能力だけなく、その人が生活する人間関係や社会環境の中で決まるという特徴があります。家族・友人のサポート、専門職によるわかりやすい説明、充実した社会資源が周囲にあれば、仮に本人のヘルスリテラシーが低くても、不健康な行動などに直結しにくいと考えられます。ヘルスリテラシーには、地域や社会の資産としての価値があり、健康格差の解消に寄与する可能性があります [2,3]。

図3 フレイル予防・健康行動を支える地域(周囲)のヘルスリテラシー
個人のスキルが低くても、周囲のサポートがあれば健康行動につながる可能性
Health education
ヘルスリテラシーを育てる教育介入・地域活動
我々の研究室では、個人と地域のヘルスリテラシーを育てるという視点で、地域住民間の情報交換や行動の伝播を促す介入プログラムの検討を行いました。従来の(一方通行であることが多い)健康講座とは異なり、対象者自身が宿題として調査したり、意見交換やディスカッションをしたり、それをもとに行動を計画したりという能動的なプロセスを含みます(図4)。




図4 アクティブラーニング型健康教育の流れ
このプログラムの狙いとして、ヘルスリテラシーのプロセスの成功体験に加え、対人交流による観察学習があります。簡単に言うと、観察学習とは、人から刺激を受けることで、「周りの人がやっているから、自分にもできそう、やろうかな」といった気持ちを引き出すことを指します。参加者からは「周りの人の頑張りを見て、自分も意識が変わった」、「一緒に取り組む仲間の存在に励まされた」といった声が多く聞かれました。また、運動のための施設や、サークル活動を紹介・勧誘し合うなど、地域資源に関する情報が共有されることも大きな利点です。
この介入によって、ヘルスリテラシー向上や身体活動促進の効果が得られることを、ランダム化比較試験のデザインにより報告しています [4]。また、一連の学習内容を一冊に含めた専用テキストを作成しました(図5) 。この研究で得た知見をもとに、地域づくりの視点で、住民グループによる地域活動を大学がサポートしながら行いました。上記のプログラムの参加者が今度は発信する側になり、学習成果を地域の文化祭で発表したり、自治会の主催で健康に関する情報交換の場を設けたりと、さまざまな地域活動へと広がりました(図6)。さらに近年では、Webミーティングを利用した場合の実行可能性についても報告しています(図7)。

図5 テキストの各ページの基本構成

図6 住民グループによる普及活動

図7 Webミーティングを利用した健康教育
Policy evaluation
介護予防施策の検証(自治体との共同研究)
「地域」のヘルスリテラシーを決定づける要因の一つとして、自治体による介護予防事業が想定できます。介護予防事業は全国の自治体で行われていますが、効果の検証・評価は十分行われていない現状があります(図8)。自治体の担当者さんからも「どう評価したらいいかわからない」という悩みを耳にすることが多くあります(図9)。そこで市町村と連携して、実際に健康寿命延伸につながっているか、などをデータから分析しています。

図8 自治体による介護予防事業の検証の実際

図9 事業効果の検証に関する自治体担当者の声
介護予防の中核的な施策として、住民主体で体操・趣味などのグループ活動を行う「通いの場」が全国的に推進されています(図10)。通いの場は、生活機能低下の有無にかかわらず、誰もが担い手/支えられる立場となって社会参加できる場とされています。さらに、参加者同士の情報交換や行動の伝播が生じる情報ハブ(情報が集まる・伝わる拠点)の役割も期待でき、まさに社会の資源そのものと言えます。

図10 住民主体の「通いの場」
羽曳野市との共同研究では、この通いの場事業の介護予防への効果について検証しました。参加群と、非参加群を比較したところ、参加群の方が要介護・死亡の発生率が抑制されていることが明らかになりました(図11)。


図11 羽曳野市との共同研究成果
連携している自治体:大阪府羽曳野市、豊中市、熊取町など
以上のように本研究室では、住民の地域活動や自治体の施策のサポートを通じて、個人と地域のヘルスリテラシーを育て、持続可能な介護予防・フレイル対策を推進することを目指しています。